めぐる木島平。暮らしも旅もぐるっと。 木島平村村制施行70周年記念
INTERVIEW村で生きる

長坂崇頼さん/水はただ上から下に流れてくるものではなく多くの人によって守られている

更新日:2025年11月27日

 木島平村の上木島地区に鎮座する山水元神社。この神社の宮司であり、樽川水系管理組合の組合長でもある長坂さん。長坂家は先祖代々、この地域の水を管理し守ってきた。木島平村はその水の恩恵を受ける米どころとして現在に至る。あまり聞く機会のない水の管理のお話や村での生活について長坂さんにお話を伺いました。

村で生きる 長崇頼さん

家業を継ぐまで

 山水元神社の社家に三兄弟の次男として産まれた長坂さん。幼い頃から父の姿をみていたものの、宮司になることを深く考えたこともなく、家業を継ぐ意識はなかったという。大学進学を機に木島平村を離れ、東京へ。実家では神社の宮司をしつつ、兼業で電気屋を営んでいたこともあり、大学では電気工学を学ぶ。跡を継ぐか継がないかにかかわらず、「資格はとっておいた方がいい」と父に言われたこともあり、大学在学中に養成所に通い神主の資格を取得した。

「兄は家業を継がないと言っており、自分も継がないと言えばよかったのですが、幼い頃から宮司としての父の姿を見ていたこと、樽川水系管理組合のこともあることを知っており、継がないとは言えなかった。祭事があれば人が集まり、人の出入りする賑やかな家だな~と思っており、その景色が当たり前で子ども心にもいいなあと思っていたので継ごうと思ったのかもしれません。」

 家業を継ぐ人がいなければ今後どうなるのか。この景色が消えてしまうのでは、という喪失感もあったのか、現実に向き合ったとき継がなければという思いが強くなった。

 25歳で家業を継ぐことを決意し木島平村に戻る。電気工学も学んでいたため、電気屋の仕事もしつつ、まずは父のもとで働き始めた。しかし、まだまだ元気だと思っていた矢先、いきなり父が他界。引き継ぐ時間もなく亡くなってしまったため、会社のことはもちろん、宮司としての引き継ぎは歴史や地域の受け継ぎなどもあり非常に苦労したという。樽川水系管理組合の引き継ぎは骨の折れる仕事だった。水についていちから勉強をし、代々樽川水系に携わっている方にも助けられ、29歳で組合長となり現在に至る。とりあえずやるしかなかったというが、突然背負うことになった重責に対する不安は並大抵ではなかったであろう。

木島平村の祭事では宮司のお仕事
カヤの平高原安全祈願祭

水はただ上から下に流れているだけではない

 樽川水系管理組合の始まりは江戸時代。江戸時代に樽川の水を使用している人同士で水の権利について争いが起こったことが始まりだ。先祖の長坂織部はこの地域の代表を務めていた。水源をたどり、水の権利は木島平村にあることを証明し、裁判で権利を勝ち取った。そこから水や山のことは長坂家に任せるという約束ごとが決められ、それ以降、樽川の水のことは長坂家が管理することに。そのときの感謝の気持ちを忘れないため、1698年に山水元神社を建立。神様に感謝の気持ちを込めて、現在も春と秋に年2回祭事を執り行っている。その後も何度か裁判があり、そのたびに勝訴し、直近では平成12年にも裁判が行われた。現代の裁判においても勝訴した。先祖代々守ってきた絵図面や証拠図面があり、それは現在でも認められたのである。

山水元神社
山水元神社での祭事

「水はただ上から下に流れてくるものではなく、多くの人によって守られているということを感じます。米どころでもある木島平にとって水は重要なものです。それを守り続けるということに大きな責任もあります。水が使用できることは当たり前じゃない、大切さを皆さんにもわかってもらえたらと思います。」

 毎年カヤの平高原にある樽川水系の水源地視察をしており、水の大切さや管理の重要性を伝えている。

「水源地の奥山(カヤの平高原)には毎年いきますが、里山とは違い、景色や水が湧き出ているところを見るとすごくいいなと思います。水のことになると腰を据えてやっていかないと詳しく分からないのでなかなか難しい。次は誰が受け継ぐか分からないけど、同じ思いでやってもらえるといいなあと思います。」

木島平村は生活しやすい環境

 木島平村産まれ木島平育ちの長坂さん。自然に恵まれたこの環境が当たり前で、東京で生活をしていた時に改めて木島平村での自然の豊かさに気づいたという。

「良いところは、ぱっとでてこないくらいたくさんあります。災害は少ないし、ウィンタースポーツはできるし、人との繋がりが密なのが僕には良いところに感じます。熊がでたら頼んでもないのにパトロールをしてくれる方もいて、心豊かな方が多い村だと思います。働き先が少ない点は課題ですが、自然豊かでありながら生活がしやすく住むのにはおすすめの場所です。」

 お話を聞いて、先祖代々守り続けてきた方々がいたからこそ、今の日常があることを改めて感じた。誰かが継がなければ無くなってしまうという危機感と責任。覚悟を持って突き進む長坂さんですが、終始笑顔で穏やかな雰囲気が印象的だった。水の恩恵をうける木島平村にとって長坂さんはかかせない人物であり、今後の木島平村の発展にも繋がっていくのだろう。

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長坂崇頼(ながさか たかより)さん
山水元神社 宮司 
樽川水系管理組合 組合長 
長坂電気興業(株) 代表