室正一さん/木島平村にもお宝があることを知ってもらいたい
更新日:2025年12月19日
木島平村の歴史を知るなら室さん!と思い浮かべる方も多いのでは。地域おこし協力隊として2016年に移住後、遺跡の発掘作業という特殊なミッションに取り組んだ室さんに今回はお話を伺いました。

幼い頃から歴史に興味があり、歴史を学ぶことが好きだったという室さん。大学に進学するまでは同じ長野県の小海町で過ごし、考古学・古代史を本格的に学ぶために国学院大学へ進学し東京へ。在学中は、大学の先生に紹介してもらった発掘作業のアルバイトを経験した。炎天下の中の作業は、暑い、汚い、体力勝負の過酷なものだったという。発掘作業に必要な知識やスキルを学びながら、自身でも勉強をし、大変な仕事ではあるがどんどんはまっていった。分からないこと、知らないことは本を読んで自分で学ぶことを幼い頃から自然としてきたというが、これは室さんの強みだろう。
木島平村の地域おこし協力隊になるまで
大学院まで進み、東京で生活をしていた際、銀座NAGANOへ行く機会があった。ちょうどその日は長野県の地域おこし協力隊を募集している自治体が、説明会を実施していた。当時木島平村では、発掘作業ができる地域おこし協力隊を募集しており、その説明会にブース出店をしていた。
「まさか発掘作業員を募集している自治体があるとは、なんだか面白そうと思い話を聞きに行きました。」
興味本位で説明ブースにいったのが、木島平村との出会いだった。ぜひ面接に来て欲しいと声をかけられたこともあり、応募してみることに。同じ長野県に住んではいたものの北信・奥信濃のことは全く知らず、面接の際に初めて木島平村へ。飯山駅で新幹線がとまることもそのとき初めて知ったという。無事に面接が終わり長野駅を観光していると「採用」の通知。これも何かのご縁かなと、腹をくくり木島平村に移住することを決意。2016年5月に地域おこし協力隊に着任した。
木島平村には水田に浮かぶ「根塚」「平塚」「大塚」「小塚」の四塚と呼ばれる小山がある。この四塚は木島平村の歴史を紐解くために重要なものだ。根塚遺跡ではすでに発掘作業が行われ、1996年に弥生時代に朝鮮半島で作られたとみられる渦巻き状装飾つき鉄剣が発見されていた。それに伴い、2015年から3年計画で平塚の発掘作業が行われており、室さんはその作業に従事することになった。発掘作業以外にも文化財全般を担当し、もともと文化財を担当されていた樋口先生のもとで働いた。
「発掘は破壊行動なので記録を正確にとることが重要です。記録を読むことでどのような遺跡だったのかが誰にでも分かるようにする必要があります。時間を費やし、炎天下の中、作業をするので本当に大変です。お宝がでないと何をやっているのだと思われることもあり、肩身がせまいと感じることもありました。皆さんは、根塚がお宝を出した遺跡だったので、平塚でも何かでるだろうと期待をしていたと思いますが、今回の発掘ではでませんでした。しかし、面白くなりそうな遺跡ということは分かりました。」
なにもでないからこそ慎重に調べていくとわかることがあるという。発掘作業は時間と根気、体力のいる非常に労力のいる作業だが室さんは諦めず3年間も続けた。

東日本で初の発見「三韓土器」
地域おこし協力隊の任期は3年。しかし、遺跡の調査が十分に終わっていなかったため、試験を受け2019年に木島平村役場の職員になった。その後、平塚の発掘作業が一区切りしたところで、根塚での出土品の見直しを行った。発掘当時分かっていなかったアイテムを鑑定し、弥生時代後期の朝鮮半島で焼かれた土器「三韓土器」を発見。三韓土器は、北部九州で多く発見されていたが、東日本、加えて、北信濃という内陸部での発見はこれまで例がなく、東日本で初めての発見となった。
「ここからは風向きが変わりました。歴史をやっている=趣味と思われることが多く苦労したことも多くありました。しかし、村の知名度を上げる機会を得られ、やっと今までやってきたことが報われた気がしました。やってやったぞ!という気持ちでした。」
発掘作業は宝くじのようなものらしいが、室さんの根気と熱意が身を結んだのである。

木島平村での三韓土器の発見は注目され、2021年12月に記者会見を行った。その後の企画展では、約200人の見学者が村を訪れたという。卑弥呼のいた邪馬台国のストーリーに木島平村も切り込めるような情報を提供できたのである。それ以降、学校の授業・調布の新人研修で木島平村の歴史について講習を行うようになった。また小学生の授業の一環の「ふれあい体験学習」では弥生土器の作成、火おこし体験を担当している。
「昔から土器を作ってみたいという興味があり、4年前くらいから独学で作っています。 ほぼ趣味からの派生です。火おこしは火を得ることの大変さや危険性を教えるためにやっています。最近は、マッチやライターを使用することもなく、火を使う機会も減ってきているので、ものづくりの一環で火の意義も学んでもらいたいと思っています。自分で体験することが一番の学びとなると思います。」

ふるさと資料館でもう一度特別展示をしたい
室さんが勤務している農村交流館内にある、ふるさと資料館は2013年に開館。ふるさと資料館には木島平村の歴史を知ることができる考古資料や文化財が展示されている。
「ふるさと資料館でやりたいこと、やらなければならないことはまだまだたくさんあります。三韓土器を発見し、特別展示をしたときは見せ方・説明・飾りつけを全て自分で考え行いました。苦労はしましたが、また特別展示をしたいです。木島平村だけではなく、他の市町村ともリンクさせて広く面白いものを見せたいと思っています。」
県内の美術館・資料館に足を運び展示方法を見て学び、全て手作りで行った。ここでも室さんの強みである自分で学び、実行する力が活きたのだろう。
「木島平村にお宝があることを知らなかった村民の方は多いと思います。根塚遺跡から発見したものの中には、国の博物館が貸してほしいと言うほどのものもあります。昔は大発見だったが資料館がない期間が長かったので、アピールや学習に繋げにくかったです。文化財のようなものは継続して発信していかないと忘れられてしまうので、今後も知ってもらえるように努力していかなければと思います。小さい資料館なので一から十まですべてを自分たちでしないといけませんが、逆に言えば様々なことができるので今後も工夫してやっていきたいです。」
発掘作業にせよ、遺跡の調査にせよ、誰に聞いても分からない環境の中、自分の力で物事を進めてきた室さん。穏やかな雰囲気とは裏腹に、好きなことへの熱意や行動力は卓越したものだと感じた。
木島平村の歴史を知りたい方はふるさと資料館に足を運んでみてはいかがでしょうか。運が良ければ室さんから木島平村の歴史から遺跡のお話までマニアックな情報を聞けるかもしれません。

================================
室正一(むろしょういち)さん
小海町出身
2016年 地域おこし協力隊として移住
2019年 役場職員として働く
趣味 歴史を学ぶ 読書 弥生土器作り
関連ページ
ふるさと資料館(農村交流館内)/全国的にも珍しい貴重な考古資料を展示、木島平の歴史がわかる
木島平の歴史を物語る風景「四塚」