めぐる木島平。暮らしも旅もぐるっと。

築140年の古民家宿「窓月まつしまや」。
一歩足を踏み入れると、タイムスリップしたかのような非日常の空間が広がります。古民家のたたずまいを残し、どこか懐かしさや温かみを感じる母屋と、2棟の蔵を改装した客室は1日2組限定で洗練された空間が広がります。「もともとお宿をやるのが夢だった」という女将の中村文絵さんに今回はお話を伺いました。

中村さんが木島平村で「窓月まつしまや」を開業したのは7年前。それまでは東京の大手電機メーカーに勤務。人事や総務、役員秘書として28年間働いた。在職中に司会の仕事に興味をもち、働きながら専門学校に通い、結婚式の司会や映像ナレーターの仕事もしていた。平日は会社でフルタイム勤務、土日は司会の仕事。
「本当に忙しく働いていたと思います。気づいたら今月20日働きっぱなし!なんて月もありました。でも会社は楽しかったし、司会のお仕事は指名してもらえるのも嬉しくて続けられました。」
そんな多忙な生活をなんと12年も続けた。まさにバリバリ働くキャリアウーマン。充実した怒涛の四半世紀を送っていたという。

ただ、「人生百年」という言葉に触れたことがきっかけで、今後の人生について考えるようになった。
「人生残り半分と考えたら、次のステップに進みたいと思い、若いころからいつかお宿をやりたいと思っていたのでその道に転進しようと決めました。」

もともと旅が好きで、職場の夏休みを利用し、日本全国様々な場所へ出かけていた。北は北海道、南は沖縄まで日本全国を巡っていたという。旅をする中でふっと肩の力をぬける場所に出会い、自分もいつかそんな場所をつくりたいと思うようになり、いつしか宿を経営することが夢になっていた。 そこでホテル業界に絞り転職活動を開始。しかし、全く異なるジャンルの仕事で経験もないためニーズがなかったという。そこで思い立った中村さん。
「だったら自分でやってみるか!と思い、色々調べてみたら、1日でも早くやるべきだと思っちゃって。ただ会社を辞めるだけではなく、人生を前に進めたいと思いました。」
穏やかな雰囲気からは想像できない決断力と負けん気。終始笑顔でお話してくださり温厚な人柄のなかに、どこか芯の強さも感じた。内に秘めた強さでこれまでも自分で道を切り開いてきたのだろう。

旦那さんに思いを伝えると応援してくれ、いよいよ物件探しからスタート。なかなかピンとくる物件が見つからず、たまたま訪れた木島平村でこの古民家に出会った。一目惚れだったという。 
「道路から見ただけで気になってしまい運命なのかなと思ってすぐにここに決めました!」
と話す中村さんはとても嬉しそう。照れくさそうな笑顔で、チャーミングな一面も垣間見ることができた。

そして木島平村に夫婦で移住し、2018年11月に「窓月まつしまや」を開業した。目指したのは肩の力をふっと抜くことのできる空間。

「元の家主さんが大切にされていたので母屋はほぼリフォームせず使用しています。2棟あった蔵を客室にリフォームして1日2組限定にしました。酒蔵だったことと、私自身もお酒が好きなので大人がお酒をゆっくりしっぽり飲める宿を目指しました。」

ついに始まったお宿。しかし、開業後は一筋縄ではいかなかった。開業まもなく、宿泊業の専門家が泊まり、様々な指摘を受けた。悔しかったが言われていることはごもっとも。心底落ち込んだ中村さんだったが、自分が素人だからだめなのだと、すぐに野沢温泉の老舗旅館で働き、ノウハウを学んだ。そこから軌道修正し、日々奮闘しながら現在に至る。

「辛い経験だったけど開業した最初のタイミングで学ぶ機会を得られてよかったです。今の課題は集客。これからもっと多くの方に来ていただけるよう、工夫していきたいです。続けていくのは大変だけど、来てくださったお客様がのんびり過ごしてくれるような空間であり続けたいと思っています。」
今ではリピートのお客様のほうが多く、様々な年代のお客様と過ごす時間を中村さん本人も楽しんでいるようだ。夢を応援し支えてくれている旦那さんにも日々感謝しながら、今後もマイペースで続けていきたいという。

こうしてたまたま住むことになった木島平村。
都会での生活が長かった中村さんにはどう映っているのか。

「水も空気もとにかく美味しい!自然が豊かで四季がはっきりしています。冬が長いから、春がくるのがとても待ち遠しく、花が咲いただけで嬉しい。雪は雪で綺麗で、一面の銀世界に月が輝く景色がお気に入りです。あと、夜がちゃんと暗い(笑)!星も月も空も、なにもかもが美しい。」

四季が濃く、自然豊かな木島平村に移り住み、こんなにも自分は感情が豊かだったのかと気づかされた。7年住んだ今でも美しい景色に感動することは日常だという。

「季節ごとの旬の食材を知り楽しめるようにもなりました。野菜が口に入るまで、どう育ち、どう収穫されるのか。採れたての野菜をいただくようになって初めて知ったことばかり。勉強の日々です。」

木島平村では自宅で農業をしている方が多く、ご近所さんから採れたての野菜をいただけることもしばしば。自然と食について学ぶ機会があるのも木島平村のいい点だ。木島平村の美味しい食材をお客様に提供できるよう、調理師の免許やベジタブル&フルーツアドバイザーの資格を取得するなど、どんどんステップアップしていく中村さん。開業当時と信念は変わらないが今後どのような展開になるのかとても楽しみだ。

母屋のゆったりとした落ち着ける雰囲気と、中村さんの穏やかで温かい人柄に終始癒され時間が経つのも忘れるほどであった。宿に泊まられるお客様も、この空間と中村さんのおもてなしで時間を忘れゆっくりと過ごしているだろう姿が想像できた。日々の生活から離れ、静かな時間を過ごせる空間でゆっくりとした時間を過ごしてみてはいかかでしょうか。

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中村文絵(なかむらふみえ)さん
群馬県出身
趣味 美味しいものの探索・ネコのブラッシング
2018年窓月まつしまや開業
→窓月まつしまやの由来
酒蔵の屋号松嶋屋を引継ぎ「まつしまや」
もともと月が好きで、月という単語を入れたかったところ、庭の石碑に「窓の月」というワードがありそれを引用し「窓月(そうげつ)」

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